はじめに

このページで理科教育学を定義したり、独自の提案をしようとはしていないことをご了承ください。

しかし、現在でも理科教育学や科学教育学が学問として明確な位置を確保しているとは言い難いのではないでしょうか。今日における科学者や工学者・技術者の論文が世界のそれぞれの国際的なジャーナルに掲載され注目されている中で、日本人による理科教育学や科学教育学の英文の論文がなかなか掲載されていないという現実があります。

21世紀に向けて、科学や技術の面で創造的で躍動的な持続可能な社会を維持するために、理科教育学やエンジニアリング教育学の重要性が問われることになるでしょう。諸外国ではすでに具体的努力がなされているのです。

ここで、科学教育学と言う場合、学校で教科として存在する「理科」や「理科に関連する教科」のみならず、科学に関わる教育すべてを取り扱うものであるとします。

科学教育について

ここでは、科学教育の6つの領域についてと、構成主義、GSLについての考え方を紹介します。

  1. 科学教育の6つの領域
  2. 構成主義
  3. 構成主義の意味
  4. 構成主義に基づいたSTSの日本型モデル
  5. REFERENCE
  6. GSL
  7. STEM/STEAM教育;Society 5.0時代の教育改革
    1. 科学教育の6つの領域.(アイオワ大学名誉教授 故ロバート・イエガー先生の教えのまとめ)                             科学教育の目的は、 科学的リテラシーを身に付けた市民を育成することである。このために、科学教育が関わる6つの領域がある(Yager, 1993)。科学的リテラシーを身に付けた市民の育成のために、これらの6つの領域に関わる内容が調和を保ちながら、埋め込まれている必要がある。翻って科学教育では、科学の学習の結果これら6つの領域において、具体的なアセスメントの展開が必要になってくる。科学的世界観領域:科学の本質に関わることや、自然をどのように捉えるかということに関する内容である。わたしたちは、ともすると書いてあることをそのまま受け入れてしまいがちだが、科学学習を深めることにより、科学的な能力を身に付けると同時に、世界を科学的にどう捉えるかが、変化していくものである。長い時間をかけて深められていく。科学の概念領域:学習をすることは、その過程や結果として、個々人の概念が形成されることと等しい。これは、知識として暗記することもあるかもしれないが、日常の生活の中で具体的に発展かつ利用したり、応用されるものでなければ、消滅してしまうものである。科学的態度領域:科学はできあがった学問体系ではなく、常に変化・発展するものである。そうであるからこそ、多くの科学者が日夜仕事をしている。科学には携わっているひとびとの感情が伴っているのである。美しいものに感動したり、簡単に結論をいそがず問題点をとことん追究するねばり強さが必要である。科学の創造領域:人間が主体的に行動するとき、創造的に行動しているといえる。科学においても、科学的な活動のあらゆる場面に創造力が必要である。科学的な疑問を生み出すときも、どのような方法で問題を解けるかを考えるときも、具体的な観察結果やデータをどう解釈するかにおいても、質の高い創造的・独創的な思考が必要である。科学の方法領域:科学には具体的行動がともなうのである。ある科学的考えを生み出し、それにこだわることや具体的観察や実験に結びつけたり、それらから得られたデータや結果を、複眼的な観点で捉えなおしたり、友達や先生と議論したり、まとめたりすることを、他人に言われたからやるのではなく、自ら率先して行動することである。ある科学的な疑問を解く科学の方法は無数にあり、いろいろな科学の方法を受け入れ、より質の高い科学へとレベルアップする必要がある。科学の応用領域: 科学で学習したものが児童生徒にとってとても面白く、興味があるものであるならば、児童生徒は身の回りの自然現象に対して、どんどん応用するようになるのである。また、応用することにより、科学学習はさらに深まるのである。
    2. 構成主義(constructivism)
      まず最初に疑問を投げかけたいのは、constructivism に対する訳として「構成主義」をなぜ選んだかということである。哲学辞典(平凡社)によれば、構成主義はすでに芸術の世界で使用されており、また、教育心理学新辞典(金子書房)によれば、構成主義は structurism, constitutionism の訳として使用され、カントの認識論をさすためにも使用されていたとされている。つまり、constructivism の訳については心理学者・哲学者・教育学者の科学者集団による共通理解が欠けてはいないだろうか。さて、日本語訳もさることながら、1989年から1993年までの構成主義論にかかわる論文をいくつか比較してみることによって、構成主義と一言で言ってもいろいろな立場があることがわかる。このことは、構成主義が持つ特異な性質からくるといえる。たとえば、Bell(1991)が述べるように、「構成主義は科学教育にかかわる多くの論文を産み出してきた。すなわち、学習論、教授論、科学の本質論、科学教育の目的論、カリキュラム論」などがあげられる。 von Glasersfeld (1993)によれば、ピアジェ流の構成主義と革新的構成主義と社会的構成主義の大きく3つに分類されるとした。von Glasersfeld自身は革新的構成主義の立場を取り、認識論(epistemology)的に明確な立場を示した。例えば、「真実(truth)は我々の経験の外に常に存在する。いかなる科学においても、真実を発見しているわけではなく、ある特定環境での実行可能性(viability)の発見なのである。従って、objectivism(客観主義)や idealism(観念主義)とも異なる。つまり、外界のありのままの世界を否定はしないのであって、単に私達は自分達の経験を通した世界のみ知りえるのであり、疑問を持ち続けることに賛成しているのである。」 Matthews(1993)は「構成主義の1つの大まかな分け方として、個人的構成主義と社会的構成主義の2つに分けられる(p.362)」とした。この分類では、von Glasersfeld は個人的構成主義者にされ、ピアジェ派や新ピアジェ派のメンバ-と見なされ、これらの人々の認識論的な位置づけにはかなりのばらつきがあると述べている。社会的構成主義については、基本的には旧ロシア時代から旧ソ連時代のVygotsky(1896-1934)らによって出された立場であり1930年代にさかのぼるとし、科学社会学やKuhn (1962)のパラダイム論に象徴される新科学哲学からの影響が強いとした。さらに French(1989)は、科学教育学の構成主義的研究の手法として、社会学的・民族学的なものを取り入れることにより、より質的な研究ができることを、具体的事例を示しながら論を進めた。堀(1992,p129-130)はピアジェ理論と構成主義学習理論の相違について述べているが、前述の通りピアジェ理論の延長にも構成主義があり、 O’Loughlin(1992)が詳しく述べるように、ピアジェ学派の構成主義が少なくてもアメリカの科学教育会の中で認められ、その上でディベートがなされていると見るべきではなかろうか。このことは論文だけでなく、1990年のNARST(全米理科教育学学会)での全体会での激論からも理解できた。ピアジェ批判は主にコーネル大学のノバック学派の人々や科学社会学・新科学哲学を支持する人々によって行われていると見られる。以上の議論を踏まえて、最近出された構成主義の定義として、Yager(1993)の定義を示しこれがSTSとどの様につながっていくのかについて論を進める。
    3. 構成主義の意味(Yager, 1993)
      「知識とは個々人において得られるものであり、容器にものを入れるように移動するものではない。化学的に説明される生理学的過程ではないのである。そうではなくて、質問に個人的にかかわったり、説明したり、その説明が有効であるか試行してみたりすることを必要とするのである。個々人の学習が自分自身で意味を形成(構成)していくのだとモデルは示しているが、だからといって必ずしも隔離されるということではない(学習者がそれぞれ勝手に学習すればよいということではない)。いずれにしても、児童生徒はしばしば、教師・教科書・学校などの存在なしに自然現象に対していろいろな意味を個々人の頭の中で形成しているのである。したがって、教師は児童生徒にとって、個々人の意味を形成しやすい場所を設定してやる必要があるのである。更に、形成された意味を、役に立ち、適切な種々の新しい状況に応用することがなされなければならない。児童生徒は、各人が持っている概念に挑戦することによって、更に学習を促進することができるのである。(p14)」(Yager,1993)この表現からみる限りイエガーの定義は von Glasersfeldの構成主義に近いといえる。しかし、だからといって社会的構成主義は無視されているかといえばそうではなく、チャタクワプログラム(熊野、1992)の中で実践されているように、cooperative learning(協同学習)地域との物質的・人的交流を積極的に行っている。このイエガー氏の定義との一つの対比として、リーズ大学の科学における子供の学習プロジェクト(Children’s Learning in Science Project:CLSP)の構成主義の定義を以下に示す。「学習とは動的プロセスであり、その結果として個々の学習者によって知識が構成されていくのである。」そして、さらに次の7つの学習の構成主義的見方が示された。

      1. 学習は学習環境によるだけでなく、学習者が既に形成しているものに影響を受ける。
      2. 個々人が個々人の意味を形成していく。
      3. (個々人の頭の中で)意味を構成していくことは、連続的な動的プロセスである。
      4. 学習は概念の変容を来すこともある。
      5. 意味を形成していくことが、いつでも信念にはつながらない。
      6. 学習者自身が最終的に学習に責任がある。
      7. 幾つかの意味の構成(形成)は、(子どものあいだで)共有している。
    4. 構成主義に基づいたSTSの日本型モデル
      構成主義的観点に立てば、その文化や社会に応じて、STSの文脈や内容が変化されるべきである。さらに、モデルそのものも独自に構築していく必要がある。まして理科離れが問題となっている昨今、諸外国の事例を研究しつつ我が国独自のSTSが理科教育のなかでも創造されることが急務である。筆者は筑波大学の大学3年次の学生を対象に2日間の集中講義の後、STSのモジュール作りを試みているが、この過程の中で学生より示唆のある考察を得ることができたので、報告する。

      1. 良い点
        1. 構成主義に基づいた評価法は日本の学校教育へも応用可能であり、特にポートフォリオは重要である。
        2. 児童・生徒の自己の確立や自己実現にとても役立つ。
        3. STSは特に実験や観察のとき、大いに役立つ。
        4. STSを実践するには、教師も自己啓発をせまられるので、より生き生きした授業となる。
        5. STSは子どもの日常生活に関ることから学習が始まるのでより多く学ぶ可能性が高い。文脈を大切にするので理解が深まる。
      2. 問題点・改良点
        1. 日本の子どもは議論ができない。自分の考えもうまく言えない子どもが多いのではないか。問題意識も低い。
        2. 日本の子どもたちは、自分たちの考えに基づいて観察や実験をおこなうようになるには、それなりの訓練が必要ではないか。
        3. STSは子どもたちにとって居心地が悪いのではないか。
        4. 日本人的人間関係がSTSにとって障壁になるのでは。
        5. 大学入試制度が無くならない限り、大学への進学希望の生徒を抱える高等学校では、十分時間を使ってSTSはできない。
        6. 教師は必然的に多くの時間と労力が必要である。
        7. STSの授業で生徒がとんでもない方向に暴走したらどうしたらよいのか。教師の役割が今一つ不明確。また、教師の中立性をどのようにして保つのか。
        8. 創造力や応用力はある一定の理科における基礎・基本がなければ発揮されない能力であり、STSは急に簡単にできるものではない。(etc.)
      3. 日本モデルを構築するために長洲(1992)が述べるように、STSは日本の理科教育にとって究めて重要なモデルを提供するだけでなく、根底から再検討を要求するものである。このとき、堀(1992)・小川(1992)が指摘するように、構成主義が理科教育学の飛躍的な発展に寄与でき、理論と実践の両面において学問の枠組みを拡大できるであろう。すなわちアイオワモデルのように、構成主義的立場に基づいたSTSアプローチを行うことにより、理論と実践の両面において新しい知見を得られたのである。しかも、この構成主義はその固有の文化に応じた理論と実践があるとする点が究めて魅力的である。理科教育学の成果が他の学問分野へ輸出できる時代が近づいたとも言えるのではないか。 STSアプローチの日本モデルを構築するために、少なくとも最低、次の事柄が必要であろう。(組織化された研究体制が必要)
        • アイオワチャタクワに準じた教師教育データの収集と分析。アメリカのデータとの比較分析を通して、日本モデルの基礎資料を作る。アセスメントパッケージの見直しを行う。
        • 実践可能な日本モデルの再構築(理科教師の研究・学習モデルの研究・授業研究・児童生徒の認知科学論的研究・評価論の研究・学校における理科教師を軸にした人間関係論などの結果を元に作成する。)
        • 大学・教育委員会・校長会・理科教師集団・地域の科学技術系企業との密接な協力体制作り。(地域の科学技術に根ざした学習環境・組織作り)
        • 財政的なサポート。(教師への教材開発費や、情報収集・分析・交換・補助・支援のための相方向型のコンピュータシステムの構築費ーたとえばe-mailなど)
        • 教師支援システムの作成(教師・生徒がアクセスできる情報を増大し、よりレベルの高い学習が保証されるためのデータバンク作り。地元の科学・技術とより早くアクセスしそれらを取り入れた学習パターンの利用例などを提供する。ただし、教師は個々の学校に応じたものに修正する必要あり。)
    5. REFERENCE
      1. Bell, B (1991). A constructivist view of learning and the draft forms 1-5 science syllabus. SAME Papers, University of Waikato, Hamilton, New Zealand, pp. 154-180
        Yager, R.E. (1993). The constructivist learning model: a must for STS classrooms. In The Status of Science-Technology-Society Reform Efforts around the World,International Council of Associations for Science Education(ICASE), pp. 14-17
      2. von Glasersfeld, E. (1992). Questions and Answers about Radical Constructivism. In Relevant Research Volume II, Scope, Sequence, and Coordination of Secondary School Science, NSTA, pp. 169-182
        Matthews, M.R. (1993). Constructivism and science education: some epistemological problems. Journal of Science Education and Technology 2(1), pp. 359-370
        Kuhn, T.S. (1962, REPRINTED WITH ADDITIONS, 1970). The Structure of Scienctific Revolutions,Chicago, University of Cicago Press, pp. 1-210
      3. French J. (1989). Accomplishing Scientific Instruction. In Robin Millar, Doing Science Images of Science in Science Education, The Falmer Press, pp. 10-37
        熊野善介 (1992). STSムーブメント:科学教育の新しい潮流ーSTSを中心としたアイオワチャタクワプログラムの全貌と科学教師教育としての位置づけー、日本理科教育学会第42回全国大会千葉大会要項
        Kumano,Y. (1991). Why does Japan need STS…, A comparative study of secondary science education between Japan and the U.S. focusing on an STS approach. Bulletin of Science, Technology & Society, 11(6), pp.322-330.
      4. Scott,P. (1987). A constructivist view of learning and teaching in science. Children’s Learning in Science Project, Center for Student in Science and Mathematics Education, The University Leads, LS2 9JT
    6. GSL(Global Science Literacy)
      グローバル・サイエンス・リテラシー(Global Science Literacy)研究プロジェクトGlobal Science Literacy(以下GSL)は中等学校レベルの理科カリキュラムを総合化・国際化・環境化する概念的手段である。これはアメリカのオハイオ州立大学と北コロラド大学の教育関係者によって開発されたものである。この研究プロジェクトでは、GSLに基づいたカリキュラムの開発と実施について日本の高等学校にご協力頂いた。グローバル・サイエンス・リテラシーについて
      Global Science Literacyは科学の本質を生徒が理解することを広げようとする試みである。その基本概念は、科学は我々人間が生活する地球や宇宙空間での環境を理解するために使うプロセスであるということである。それゆえ、科学の指導法は地球システム(生物圏・岩石圏・大気圏・水圏)や、太陽系、銀河系、そして我々が住む宇宙の一部から始めるべきであるということになる。我々は地球に生活するので、科学の指導の中心は地球におかれる。科学者や理科教師は地球のプロセスを調査する特別な方法を知っている。そのひとつが多くの人が以前行った科学の研究の方法である。多くの人は、科学実験をすることや、色々な変数を同一視したり、外したり、制御する必要性になれているであろう。これはいわゆる還元主義科学(reductionist:特に物理・化学領域)と呼ばれるものである。還元主義科学は技術的な応用ができる地球プロセスについての知識を得ることに大変有用であった。一方、地球科学での研究アプローチがある。それは自然のプロセスを研究するのに非常に有用である。例えば、現在の環境の特徴を作るのに自然のプロセスが過去にどの様に作用したか、将来どの様に作用するかなどである。これはシステム・サイエンスと呼ばれている。実際には2つの科学は存在せず、一連の両端と考えられている。還元主義科学とは一つの変数の孤立を示し、システム(体系)科学とは多様な変数や、その相互作用を考慮に入れるものである。生態学や地球科学を学んでいない人は、このタイプの科学に慣れていないかも知れない。GSLではこの2つのタイプの科学がカリキュラム中に示されている。GSLでは科学における重要な考え、つまり重要な考えが物理・化学・生物・地学によって発展してきたかどうかということを生徒に知らせることが大切である。しかし教えられる全ての考えは、地球のサブシステムを理解を応用することで教えられるのである。それゆえ、密度の物理概念は台風、火山の噴火、魚の浮力の役割を通して学習することができる。以下にGSLの特徴を示す。

      1.  重要な考え(ほとんどの科学に共通する考え方)に関する指導法はいつも生徒の自然の体験から始められる。重要な考えはアースシステムの個々の科学的とらえ方としてそれぞれの文脈のなかで示される。例として、台風の起源や活動についての空気密度や圧力がどの様に作用するか。
      2.  アースシステム・プロセスで研究されている美的なとらえ方が、科学の指導の中に組み込まれる。例として、衛星写真で台風の美しい映像や日本文学・芸術・音楽での台風の表現のされ方などを含む。
      3.  生徒が身の回りの世界を理解するのに重要なあらゆる科学概念が、物理・化学・生物や他の領域の科学を考慮しながら、アースシステムの文脈に埋め込まれている。
      4.  指導は地球のプロセスの身近な例で始められるのであるが、世界中の他の地域からのプロセスの例もまた引用される。この方法で日本の生徒は自然環境に関する世界的な展望を得ることができる。
      5.  GSLは科学が地球上の多様な文化のコミュニケーションの不変な媒介となることを強調する。科学者は自然を観察することを通して、自分の考えを確信したり、有効でないことを知るために他の科学者とコミュニケーションすることで、彼らの考えを確信する。データに基づいたり、データに反してテストされたりしたコミュニケーションのプロセスは、社会文化的な相互作用などのような他の領域の人間の営みに利用される。
      6.  GSLでは、生徒が学習するアースシステムプロセスを理解することや、生徒の毎日の生活に技術が応用されていることを理解することを援助するときに、技術の利用について学びます。例として、台風の影響を追跡したり予想したりするのに、衛星やコンピュータ技術を利用する。
      7.  GSLは、多くの現在の理科カリキュラムの還元主義者の方法と同様に、アースシステムプロセスを研究したりするときに、システム科学の方法を利用することも含みます。例として、生徒は、日本の領域で台風がどの様に活動するか決定するために、10年間のいろいろな台風に関して、集約された二次元および三次元情報から得られたデータを研究する。
    7. STEM/STEAM教育

日本型STEAM教育の構築と展開
-これからの教科横断・文理融合型の総合教育-
1. はじめに
平成4年より、新しい高等学校学習指導要領が始まり、教科横断・文理融合型の総合教育といえるSTEAM教育が全国の高等学校において具体化されることとなる。2014年一部改正された「科学技術基本法」と2016年に第5期科学技術基本計画が内閣府で閣議決定された。実はこの科学技術基本計画が大きな意味がある。というのも「Society5.0 」にむけて、日本政府のあらゆる関係者が具体的にどうするかのアクション計画とそれに対応した予算計画が示されたからである。さらに、その5年度に第6期科学技術イノベーション基本計画がさらなる緊急性・喫緊性のもと2021年に閣議決定された。これまで、あらゆる公官庁、県市町村がこの国家戦略のもと動き出したのである。イノベーションを創生する人材育成も重要視され、STEAM教育が位置付けられた。ここまで、徹底して展開し始めたのは、日本の歴史的な転換点を迎える可能性が大である。まさに、これからの世界の中で、日本が生き残りをかけて、課題解決が求められるSTEAM領域のあらゆる段階での人材育成が求められている。
2. アメリカのSTEM/STEAM教育
1976年から1977年まで、学部での地質学専攻者として1年間、マカレスター大学にて学び、1989年から1993年までアイオワ大学の博士課程科学教育専攻者として在籍し、長らくアメリカに留学したことや、文科省の在外研究として3か月間、アメリカとカナダの複数の大学院科学教育コースの研究を行ったこと、そして、2012年に再び3か月間、フルブライトプログラムにてアイオワ大学の客員研究員として、アメリカの現場の変化を捉えた者として、やや異なった観点で論を進める。
2007年にマサチューセッツ大学のArthur Eisenkraft教授を議長とする、21世紀型スキルと科学教育改革に関する専門家会議が開催された。2007年7月までに、21世紀型スキルのたたき台が作成され、これに関して科学教育の専門家から、アメリカの科学教育の改革のためにどのような課題があるのかが議論された。(NRC,2010)
専門家委員会のメンバーは当時マサチューセッツ大学教育学研究科のArthur Eisenkraft教授、マサチューセッツ工科大学、ワシントンDCオフィスのWilliam Bonvillian教授、カリフォルニア大学バークレー校教育学研究科のMarcia C.Linn教授、ペンシルバニア大学認知科学研究所のChristine Massey教授、Merck科学教育研究所のCarlo Parravano教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校心理学専攻科教授、William Sandoval教授である。
本専門家会議から出された21世紀型スキルとは以下の通りである。
① 応用(活用)する能力(Adaptability);
不確実で新しく、尚且つ仕事の在り方が急速に変化する状況に意欲的に挑戦していく能力のことである。ここでは、緊急で、危険な状況に対して効果的に対応することや、新しい仕事、新しい技術や工程を学ぶことが包含される。この応用する能力には、仕事のストレスを管理することや、さまざまな性格の人々に適応することやいろいろなタイプの人々と意思疎通を展開することや、屋内や屋外の様々な環境に物理的に適応することができることが含まれる。(Houston, 2007; Pulakos et al.,2000)
② 複雑なコミュニケーション・社会的能力(Complex communication/social skills)
適切に対応するために他から言語的にあるいは非言語的な内容を解釈したり、遂行したりする能力のことである。熟達したコミュニケーターは共有する理解を形成するために、画像、音声、言葉で表現される複雑な思考の中からカギとなる部分を選びだす能力を有している。(Peterson et al.,1999)
③ 非日常的な問題解決(Nonroutine problem solving)
熟達した問題解決者は幅広い情報を分析し、パターンを認識し、問題の原因の分析をするために、専門的な思考を活用する。問題の原因の分析を乗り越えて、解決に向かうために、2つの知識が必要とされる。1つ目は、情報が概念的につなぎあっているのかという知識、2つ目はメタ認知に内容される知識のことである。すなわち、問題解決戦略が機能するかどうか、もしうまくいかないとすると他の戦略に転換するかどうかに反映される能力のことである(Levy and Murnane, 2004)。ここには、新しく革新的な解決策、一見関係のない情報を統合すること、他が見落としがちな享受の可能性を生み出す創造力が含まれるのである。(Houston, 2007)
④ 自己管理と自己啓発(能力)(Self-management/self-development)
距離を超えて実際のチームと仕事ができること、そして、自己向上力があり、自己分析する能力があることである。自己管理能力の一つの観点は、自ら進んで遂行する能力のことであり、新しい情報を獲得する能力のことであり、関連した遂行するための技能が含まれる。(Houston, 2007)
⑤ システム思考(Systems thinking)
すべてのシステムが如何に働きあっているかを理解する能力のことである。そして、いかにシステムのある部分におけるあるアクションやある変化、ある不具合が他のすべてのシステムに影響を及ぼすことを理解する能力ことである。(Houston, 2007) 機能している異なった要素が相互に作用していることについて概念的に理由づける能力はもちろん、システム思考には価値判断や意思決定をおこなうこと、システムを評価することが含まれるのである。
この会議は、全米の連邦レベルにおいて、科学教育における21世紀型の資質・能力を検討した重要な会議であり、この会議において、アメリカがSTEM教育改革を起こすための工学の本質の理解や応用科学の重要性、システム思考、様々な能力や価値観を持つ人々とチームとして課題解決をしていく学びの重要性が示されている。したがって、上院と下院の超党派の人々の応援、経済界からの応援、全米科学研究機構(NSF)からの支援があり、K-12カリキュラムフレームワークの作成、そして次世代科学スタンダード(NGSS)の作成に、これらの多くの人々が影響を及ぼしたことになる。そして、全米州知事会の強力な支援のもと、戦略的に「すべてのアメリカ人」のための教育改革、すなわち、1996年のときあまり時期尚早で機能しえなかったシステミックリフォーム(地域社会がトータルで支えあう教育改革)を可能にするための計画が練り上げられていった。そのために、2011年に出来上がった科学教育改革のためのK-12 フレームワーク、並びに次世代科学スタンダードの作成協力者として、各州の多くの科学カリキュラム作成の専門家が名を連ねている。1996年の全米科学教育スタンダードと2013年の次世代科学スタンダードの違いは、科学においてのみならず、工学教育コミュニティと数学教育コミュニティ、そして言語教育コミュニティが協力連携し、州ごとの科学教育スタンダードを改訂したところに重点があり、PBL型の授業を中心にしたSTEM教育改革となっていることである。そのために、「技術(technology)」と「工学(Engineering)」の定義を明確化したこと、そして「探究(inquiry)」と「プラクティス(practices)」の定義を明確化し、より科学の本質や工学の本質に近づきイノベーションにつながるより高度な学習活動をさしていると文章から捉えられるが、日本におけるPBLとNGSSを基盤としたPBLの比較研究が求められる。我々の研究課題である。
我々の熊野研究チームは、これらに参画した、アイオワ州とミネソタ州の専門家に2度インタビューを行うことができた。これらの結果は熊野の科学研究費の報告書に詳しく述べられているので、参考にしていただきたい。