STSとは

昨今,わが国でも多くの研究者・実践家によって多くのSTSについての研究報告や 実践報告が出されてきたことは時代の流れであろう.ここでは,新しい科学教育の全 体像としてのSTSについて明らかにしておきたい.まず,STSが求める科学技術リテラ シーを身につけた人とはどのような人かについて,前述の声明文の中で以下のように 箇条書で示されている.(NSTA,1990:p.250)

  1. 日常の問題を解決したり,日常の生活で責任ある意思決定をする際,科学・技術 の概念を用い,倫理的価値の十分な熟考をする.
  2.  可能な代替案を考慮した上で,責任ある個人または市民として行動を行なう.
  3. 証拠に基づいた理性ある論議を通して決まったことや,行動を守る.
  4. 興奮と解釈を求めて科学と技術に携わる.
  5. 自然界や人工的世界への好奇心やそれらの感得を明示する.
  6. 観察可能な自然事象を調べるとき,絶えざる疑問の気持ちと細心の注意で調査 方法,論理的な推理,創造力を適用する.
  7. 科学的研究や技術的問題解決を高く評価する.
  8. 情報源をつきとめ,情報を収集し,分析し,評価する.そして,これらの情報を 問題解決,意思決定,行動を起こす際に用いる.
  9. 科学的,技術的な証拠と個人的な意見を区別し,信頼できる情報と信頼できない 情報を区別する.
  10. 科学的,技術的知識は暫定的なものであることを認め,新たな証拠を受け入れら れる.
  11. 科学と技術は人間の努力によることを認識する.
  12. 科学的,技術的な発展の恩恵と重責を熟考する.
  13. 人類の福利厚生を促進するために,科学と技術の強調点と限界を認識する.
  14. 科学と技術と社会の間の相互作用を分析する.
  15. 科学と技術を歴史,数学,芸術,人文科学のような人間の他の知的営為に関連づ ける.
  16. 個人的そして地球規模のイシューズ(論題)に関係させて,科学と技術の政治 的,経済的,道徳的,倫理的観点について熟考する.
  17. 妥当性が検証されるような,自然現象の説明をする.

この科学技術リテラシーを持った市民の育成を目指したSTSは科学教育を根底から 再考することを迫っているのである.その一つとして認識しておかなければならない ことは,科学の本質や技術の本質に対する捉え方を大きく転換したという点である. 科学技術の暫定性を正面から受け止めると同時に科学と技術と社会の相互作用を重視 しつつ,科学技術の限界や弱点を認めつつ,今後一層複雑になるであろう諸問題の解 決にとって,科学技術がより重要になるという立場である.しかも,科学者養成の科 学教育ではなく,市民一人ひとりのための科学教育が必要であるということである.  さらに重要なことは,このようなSTSの基本理念に構成主義(Constructivism)が包 含されていることである.すなわち,上記NSTAの1990年の基本声明の冒頭で (NSTA,1994;171),

「NSTAはSTSを人間の経験との関連の中で科学の教授と学習として捉える.このこと は全ての学習者に適切な科学教育を与えるという捉え方になる.近年盛んになりつつ ある研究ではSTSの文脈での科学の学習(learning science) は,より一層精選され た概念の習得や探究の諸技能が使える生徒を明確に例示している.」

ここに集約されていることは,科学の知識は人間としての学習者が構成すると捉え る構成主義の考え方をSTSに包含しているものと言える(長洲,1996).すなわち, イェガーはSTSの基本的な指導方法として構成主義指導モデル(CLM) をそれまでのア イオワにおけるSTSの実践に基づき提案し(Yager, 1991),カナダ版を基礎にイェ ガーが編者となって作成した米国ミドルスクール対象のSTSテキストのSciencePlusで はこのCLMを積極的に取り入れ,具体化している(Yager,1992, 木戸, 長洲,1996). このことは1980年代後半より特に,構成主義を包含化していく実践と理論の洗練化を 積極的進めてきているSTSアプローチが,アイオワ大学のチャタクワプログラムにお いてなされてきていることに基づいているからである. 何故なら,アイオワ大学で チャタクワプログラムが開始される1年前に学会として公式にSTSを宣言した1982年の NSTAの基本声明ー1982年と1990年両者の委員長はいずれもイェガー教授であるーで は,構成主義については全く言及していない(長洲,1993).
以上近年,STSに構成主義を包含してきているSTS運動の主張者であるイェガー自身 からの構成主義の説明に耳を傾けてみよう(Yager,1992:p.14).
「知識とは個々人において得られるものであり,容器にものを入れるように移動する ものではない.科学的に説明される生理学的過程ではない.そうではなくて,質問に 個人的にかかわったり,説明したり,その説明が有効であるか試行してみたりするこ とを必要とする.個々人の学習が自分自身で意味を構成していくのだと構成主義の考 え方では示しているが,だからといって必ずしも隔離されるということではない(学 習者がそれぞれ勝手に学習すればよいということではない).いずれにしても,児童 生徒はしばしば,教師・教科書・学校などの存在なしに自然現象に対していろいろな 意味を個々人の頭の中で構成している.」

WHY DOES JAPAN NEED STS ?

STEMとは;熊野善介 (2021), STEM/STEAM教育の基本的な考え方ー‐海外の現状と日本の状況について-, ヘッドライン,化学と教育、69巻,8号,pp.316-319.  (無断転載禁止します)より

1 はじめに

STEM/STEAM教育について,一面的なとらえ方をしている方が多いので,4ページという紙面の中でまとめるものとする.まず,STEM/STEAM教育が米国でどのように展開していったかについての概略を科学教育学研究者としての観点から述べることとする.次に米国の動向がアジアの国々にどのような影響を及ぼしていったかを概説する.それらを記述したうえで,日本においてどのような状況になっているのかを比較しながら記述する.まとめとして,この小論が印刷される時点での日本の課題は何かや,科学教育としての課題は何か等,私たちが抱える新しい課題の解決方略としてどのような理論構築と実践が必要とされているかを述べる.

2 米国におけるSTEM教育の動向

今回の米国における科学教育改革は,どのような特徴があるといえるのであろうか.アメリカの科学教育関係の変革の歴史的な変遷を紐解くと,近年では1957年に旧ソ連がスプートニク1号という人工衛星の打ち上げに成功したことに始まった.毎日,アメリカの上空を旧ソ連の人工衛星が通過したことに始まった.アメリカが対抗した政策は多々あるが,科学技術教育の改革・改善のための法律が国防教育法(NDEA, National Defense Education Act of 1958)であった.この予算により,宇宙開発につながる小学校から大学教育までのカリキュラム研究,人材育成研究,教科書研究が展開され,アポロ計画で人類が月に降り立った1969年ごろまで継続したのである.この時代に生まれた多くの素晴らしいカリキュラム研究や教科書は極めて優れており,今日でも活用できるものも多く,現在の日本のいくつかの実験観察のモデルとして日本の理科教育に大きな影響を及ぼした.しかし,例えばこの時開発されたS-APA(Science as a process approach)という教科書は,できたときは大きな反響があり称賛されたが,科学の方法のための学習が行われ,科学の方法をバラバラに学んでしまったという反省が起こり,現在のアメリカでは科学の方法だけを学ぶことや,科学の方法の順序性を学ぶことはなされなくなっている.そして,ベトナム戦争への反発と科学技術に対する不信が起こり,「Back to Basic(基礎基本にもどろう)」運動がおこる.ほぼ時を同じくして,1970年に環境教育法(The Environmental Education Act of 1970)が制定された.その後,全米科学教育スタンダード(National Science Education Standards, 1996)が制定されて再び,科学技術系の教育の改善・改革が展開され始めた.NSEAは大変優れており,6つのスタンダードからなっていた.それらは,科学教授スタンダード,専門性向上スタンダード,科学教育プログラムスタンダード,科学教育評価スタンダード,科学の内容スタンダード,科学教育システムスタンダードが記載されている.これらをもとに各州の科学スタンダードが作成されていった.しかしながら,国際比較における科学リテラシーや数学リテラシー,そして読解力の向上には直結しなかったなどの反省に基づき,経済を支える科学技術系を中心とした領域横断的な国民的なボトムアップ方略を教育政策として取り扱う必要があった.2000年ごろまでに様々な21世紀型資質・能力論が飛び交い,さまざまな教育実践が展開されていった.

そして,次第に科学教育においても見直し論が盛んになり,2007年になり領域横断的で21世紀型資質・能力の育成をしている理論家・実践家がWashington D.C.に集められ,科学教育における検討が始まった.マサチューセッツ大学のArthur Eisenkraft教授を議長とする,21世紀型資質・能力と科学教育改革に関する専門家会議が開催された.2007年7月までに,科学教育のための21世紀型資質・能力のたたき台が作成され,これに関して科学教育学の専門家から,アメリカの科学教育の改革のためにどのような課題があるかが議論された.以下に重要な内容を抜粋する.(NRC, 2010)

 

2-1.専門家会議から出された21世紀型資質・能力のたたき台

本専門家会議から出された21世紀型資質・能力を簡約すると以下の通りである.

①   応用(活用)する能力(Adaptability);

不確実で新しく,尚且つ仕事の在り方が急速に変化する状況に意欲的に挑戦していく能力のことである.ここでは,緊急で,危険な状況に対して効果的に対応することや,新しい仕事,新しい技術や工程を学ぶことが包含される.この応用する能力には,仕事のストレスを管理することや,さまざまな性格の人々に適応することやいろいろなタイプの人々と意思疎通を展開することや,屋内や屋外の様々な環境に物理的に適応することができることが含まれる.

②   複雑なコミュニケーション・社会的能力(Complex communication/social skills)

適切に対応するために他から言語的にあるいは非言語的な内容を解釈したり,遂行したりする能力のことである.熟達したコミュニケーターは共有する理解を形成するために,画像,音声,言葉で表現される複雑な思考の中からカギとなる部分を選ぶだす能力を有している.

③   非日常的な問題・課題解決(Nonroutine problem solving)

熟達した問題解決者は幅広い情報を分析し,パターンを認識し,問題の原因の分析をするために,専門的な思考を活用する.問題の原因の分析を乗り越えて,解決に向かうために,2つの知識が必要とされる.1つ目は,情報が概念的につなぎあっているのかという知識,2つ目はメタ認知に内容される知識のことである.すなわち,問題解決戦略が機能するかどうかに反映される能力のことである.

④   自己管理と自己啓発能力(Self- management/self-development)

距離を超えて実際のチームと仕事ができること,そして,自己向上力があり,自己分析する能力があることである.自己管理能力の一つの観点は,自ら進んで遂行する能力のことであり,新しい情報を獲得する能力のことであり,関連した遂行するための技能が含まれる.

⑤   システム思考(Systems thinking)

すべてのシステムが如何に働きあっているかを理解する能力のことである.そして,いかにシステムのある部分におけるあるアクションやある変化,ある不具合が他のすべてのシステムに影響を及ぼすことを理解する能力ことである.

上記の21世紀型資質・能力(暫定案)に対して,本委員会の基本的な疑問は以下に箇条書きされた.すなわち,

①   21世紀型の能力と,今日的科学教育の改革が展開されている目標と整合性のある知識や能力は何か.

②   科学教育において,複雑な仕事に立ち向かうための児童生徒と大人の資質・能力に関する研究の状況は如何にあるか.

③   21世紀型資質・能力を担保するための科学的な探究と科学的な領域固有の観点とは何か.

④   科学教育という状況において,教授能力として教え諭す教授モデルには何があるか.

⑤   生涯学習や市民教育に活用可能な科学教育をいかにして人々に授けることが,21世紀型能力開発につながるのか.(例えば,健康や地球温暖化に対する適切な意思決定や職業の決定など)

⑥   21世紀型資質・能力を獲得することを支援するために,科学教師に如何なる準備をすべきかに関してどのような知見があるのか.21世紀型能力ための効果的な教授方略と生徒の学習方略を支援する新しい教師教育モデルにはどのようなものがあるのか.(NRC, 2010, p5)

これらの疑問に答えながら,様々な考察が展開されていく.第2章はピッツバーグ大学のChristian Schunn教授が招聘され,上記の疑問に関する質疑応答がなされている.この中で,このSchunn教授は各州の科学スタンダードの中に工学デザインスタンダードを埋め込むことは価値があると述べ,その理由としては,工学デザインスタンダードのほうがよりよく21世紀型資質・能力の5つの要素を包含しているからであると示した.また,この21世紀型資質・能力の評価はかなり困難であると示した.また,複数の論文を引用しながら,科学学習を展開する際,チームで取り組むことで21世紀型資質・能力の内,コミュニケーション能力と社会性を獲得することに繋がり,大きなチームでの学習は適応力と自己管理能力,デザインプロセスは問題解決能力とシステム思考能力を育成することに繋がると示されている.

議論のところで,カリフォルニア大学バークレイ校のMarcia Linn教授が議長として招聘され,参加した委員から以下のような疑問が投げかけられた.

ア.科学教師たちは21世紀型資質・能力を保持しているのか.

イ.州スタンダードと実際の教授方略との関係はどのようになっているか.

ウ.文化的に学校は21世紀型資質・能力の新しい教授モデルへの準備ができているのか.

エ.学校外での学習の補完があることも勘案して,21世紀型資質・能力のどのような内容を公的な学校で学ぶべきであるか.

これらの質問に対して,Schunn教授は,学校で学ぶべき最も大切な21世紀型資質・能力はシステム思考であると示した.Fuchs教授はどんなに良い学習プログラムを作成しても,教師が21世紀型資質・能力が包含された学習プログラムを展開する能力を保持していなければ,記憶を中心とした学習から脱却することは難しいと述べた.

これらの疑問はまさに,日本の文脈にもそのまま当てはまり,21世紀型資質・能力を3つの資質・能力に埋め込んだ日本であるが,次期学習指導要領の理念を具現化することの難しさがあることも同様である.

 

2-2.まとめと工学の学習内容を科学に導入する可能性に関する考察

第8章では,先端の科学・技術モデルが21世紀型資質・能力の開発には十分対応可能であることを示しながら,科学教育の新たなスタンダードには21世紀型資質・能力を埋め込む必要性があり,米国において十分可能であることが示された.そして,最後のコメントとして,ここでは,技術(technology)をしっかり埋め込んだ科学教育の可能性が示された.この時点で,全米で合意された21世紀型資質・能力はまだ開発途上であったが,21世紀型資質・能力を科学教育に取り入れることは価値があり,いろいろなモデルの開発が可能であり,新しい技術(technology)を導入するとき影響を及ぼしうることが述べられている.ここでは,まだ技術(technology)と示されているが,これが,後に工学(engineering)という言葉になっていくとみられる.また、課題解決型学習が中心に位置付けられていった。

以上,「科学教育と21世紀型資質・能力の共通部分を探究すること」というNRC(全米学術審議会)(NRC, 2010)の著作から読み取れることは,アメリカでも2007年から2010年の間において,政府レベルでの新しいスタンダードを指向した様々な議論が展開し,NGSS(2013)に至る3年間で、STEM学習としての3次元の学習や工学のデザインという概念が急速に科学教育の中に埋め込まれていったという1つの証拠であるといえる.この中で示されている多くの質問や疑問こそ,わが国にとっても真剣に議論をしていく必要がある内容を提示しているといえる.

 

2-3 アメリカの科学教育改革:STEM教育改革

アメリカの場合,これまでの考察と科学および工学系の研究者と,科学教育学者,数学教育学者,工学教育学者,現場の先生方が協働して,システミックな教育改革の素案が出来上がっていったのである.もちろん,これらの動きを後押しする,全米州知事会,上院と下院の国会議員,全米の企業団体の後押しがあって全米の教育改革運動となっていったことについては,多くの書籍・論文に示されている通りである.(熊野善介(2012),熊野善介(2019), 熊野善介(2020))これらの結果出来上がっていったのが,「A Framework for K-12 Science Education: Practices, Crosscutting Concepts, and Core Ideas (NRC, 2011)(幼稚園児から高校3年生までの科学教育フレームワーク;プラクティス,分野横断的な概念,核となる学習内容,全米科学審議会).続いて2013年に,「Next Generation Science Standards: For States, By Stages(2013, NGSS Lead States), 次世代科学スタンダード」がまとめられた. K-12フレームワークは,大きなフレームワークが示され,NGSSのほうは,州科学スタンダードの改定を示唆した,より具体的な州ごとの科学スタンダード作成のための指針が示されたのである.2018年の全米調査によれば,40州が2011年に公表されたフレームワークを導入していると回答し,19州がNGSSを基に,新しい州科学スタンダードを開発したと回答したと述べられている.2010年ごろまでに,ほとんどの州で作成されたコモンコア州数学スタンダードやコモンコア州読解力スタンダードのときは,連邦政府から大規模な補助金が投入されたが,今回のNGSSの州科学スタンダードへの導入においては,明確な連邦政府からの補助金はないが,各州政府によって19州はNGSSを基にすでに出来上がっているが,他の約20州は,より簡単なフレームワークの導入に止まり,残りの10州はまだ,道半ばといったところであった.その中でも,アイオワ州とミネソタ州は注目に値する州であり,静岡大学のSTEAM教育研究所が注目している州である.アイオワ州は2018年の上述の調査のときにすでにNGSSを基にした州科学スタンダードが作成されており,また,ミネソタ州は,2021年にNGSS準拠の州科学スタンダードがまさにまとめられようとしているからである.今後ともその内容の改定や変更の動向の調査が必要である.特に,科学スタンダードにどのように,工学的なプラクティスを埋め込んでいくことが合意されたのかや,21世紀型資質・能力をどのように捉え,学校教育の物理系-化学系・生物系・地球宇宙科学系に埋め込もうとしているのかを分析することが大切であると考えられる.また,アメリカだけでなく,台湾や韓国,シンガポール,タイ国,インドネシア,オーストラリア,イギリス,カナダ等,科学技術系教育の中でどのような変革を教育政策として埋め込もうと計画してきたのかを比較・分析することは急務である.できれば日本の教育政策プロジェクトとして展開される必要性を主張したい.

 

2.日本におけるSTEM/STEAM教育における動向と今後の教育政策への示唆

日本においては,アメリカがSTEM教育の具現化計画としてNGSSを2013年に公表してから,3年ほど遅れてて,科学技術基本法に基づき,2016年から2020年の5年間の科学技術基本計画に,経済発展と社会的課題の解決を両立する,新たな未来社会として「Society5.0」が登場した.戦後初めてといっても過言ではないといえる速度で,すべての省官庁並びに経済界が同じ方向に足並みをそろえ,また,SDGsで世界をリードすること,強靭な社会の形成とグローバル化の波,人口減少,情報セキュリティ,5Gや6Gによる,仮想空間と実在空間の合体等による生活様式の変革と,COVID19等による新たな生活様式の必要性など,我々人類社会に次から次へと課題が降りかかっている.そこで,日本においても,21世紀型資質・能力をどのように捉える必要があるのかについて,中央教育審議会等では,長らく議論が続けられてきた.

このような状況の中で,日本の文脈の中で,誰もが驚いているのが,「GIGAスクール構想」が実現しつつあるということである.また,経産省が文科省の協働のもとに主に学校と連携して推進している「未来の教室」は,世界でさまざまな展開がなされているSTEAM教育の考え方のもと,「学びのSTEAM化」のために,全国の数百の学校と企業等が連携して展開されている.早くから参加した学校は4年目に突入したことになり,質の高い実践事例が,「STEAMライブラリー」として,2021年の3月に公開され始めた.このように,経産省が主導して,企業と学校が連携して,「学びのSTEAM化」を展開することは,「日本型の学び」の斬新な進化が期待できると同時に日本の教育政策においても歴史的な転換期を迎えたといえる.アメリカにおいても述べられ,実践されているが,「システミック」な教育改革(地域が一体となった地域戦略教育改革)が展開されないと,理想と現実のギャップが起き,空回りし,アウトプットが貧弱となってしまうばかりか,他の国で具現化されてしまうことに繋がることも起こり得る.「日本型STEAM」のためにも,経産省は様々な困難があるであろうが,少なくても今後10年以上は「未来の教室」プロジェクトを継続し,さらに拡大していく必要がある.

令和3年1月26日の中央教育審議会が開催され,『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して』と題した答申が示された.この答申の中では,具体的にSTEAM教育が明確に示されたのが,高等学校教育においてで,実社会での課題解決として記載された.しかし,幼稚園から中学校の段階における,Society5.0の記載は,ICTを最大限に活用するとはあるが,児童・生徒がどのように21世紀型資質・能力を身につけるのかをさらに明確に示す必要があるのではないだろうか.今後の展開を期待したい.

3. おわりに

2012年からSTEM教育の研究を展開してきた者として,日本が2021までにここまで,急速にSociety5.0に向かって,大きく踏み込んだことは高く評価したい.しかし,科学の本質と工学の本質をどのように連携して取り入れ,数学的な思考やシステム思考等をどのように構築するかや,イノベーションが起こるための日本型STEAM教育モデルはどのようなものかに関する実証研究はまだまだ不足している.誤解を生まないように述べる必要があるのは,STEAM教育を進めると,基礎基本が疎かになるという考えを直観で述べる方々がいらっしゃるが,STEAM教育に共通する学習の営みは,児童生徒が個人として,及びグループとして疑問や課題に深くかかわり,探究活動(プラクティス)を行い,具体的な結果や解釈について議論し,課題解決へとつなげる学習なのである.結果として,総合的な学習の学びの変革なのか,新しい教科を生み出すのかの議論になっていくとも考えられるが,理科カリキュラムの転換も視野に入ってくるといえる.

参考文献

1) National Research Council (2010). Exploring the Intersection of Science Education and 21st century Skills, Washington, DC: National Academy Press.

2)  熊野善介(2012). 中学校理科の教育課程が目指す学力,第3章第2節,今こそ理科の学力を問う-新しい学力を育成する視点-,日本理科教育学会編著,東洋館出版社,98-105.

3) 熊野善介(2019). 日本及びアメリカにおける次世代型STEM教育の構築に関する理論的実践的研究,基盤研究(B)研究成果最終報告書(研究代表者:熊野善介),課題番号16H03058,平成28・29・30年度,令和元年6月,1-111.

4)  熊野善介(2020). STEM教育の日本と海外の現状-アメリカとシンガポールを中心としてー,学習情報,公益財団法人学習情報研究センター,2020, 7月号,通巻275,30-33.

5)  National Research Council. (2011). A Framework for K-12 Science Education: Practices, Crosscutting Concepts, and Core Ideas. Committee on a Conceptual

6)National Research Council (2013). Next Generation Science Standards: For States, By States. Washington, DC: The National Academies Press, 2013.